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2025/08/16

【弁護士コラム・刑事事件①】被疑者・被告人の家族から見た刑事事件

【弁護士コラム・刑事事件①】

被疑者・被告人の家族から見た刑事事件

 

<はじめに>

 第2回のテーマは刑事事件です。

 私は、刑事弁護の依頼を受けたときには、被疑者・被告人のみならず、被疑者・被告人の家族ともよく連絡を取るようにしています。

 特に、身柄事件(被疑者・被告人が身体拘束されている事件)で接見等禁止決定も付いているような事案では、残された家族は被疑者・被告人が身体拘束されている間、「いつ事件が終わるのか」「これからどのように生活していけばよいのか」など心配が尽きません。そのため、唯一の味方ともいえる弁護人によるフォローがとても大事だと感じています。

 今回は、被疑者・被告人の家族に向けに、弁護人や刑事裁判との関わり方を解説していきます。

 

<どれくらいの期間身体拘束されてしまうのか>

 まずは、身柄事件において、被疑者・被告人がどれくらいの期間身体拘束されるのか説明します。そもそも、身体拘束は、逮捕と勾留の2段階で構成されており、それぞれ法律上の期間制限が異なります。

 逮捕の期間については、「司法警察員は、…被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければなら」ず(刑事訴訟法203条1項)、また、「検察官は、…被疑者を受け取つた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。」とされています(刑事訴訟法205条1項)。そのため、逮捕段階では最大3日間身体拘束される可能性があります。

 被疑者勾留(起訴される前の勾留)の期間については、検察官は「…勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起…」しなければなりません(刑事訴訟法208条1項)。また、刑事訴訟法208条の第2項は、「裁判官は、…検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて10日を超えることができない。」と規定していることから、勾留延長も含めると最大20日間の勾留をすることができます。そのため、被疑者勾留(起訴される前の勾留)段階では最大20日身体拘束される可能性があります。

 以上より、逮捕段階の3日間も合わせると、被疑者は、起訴されるまでに合計最大23日身体拘束される可能性があるのです。

 もし、被疑者勾留中の捜査の結果、被疑者が不起訴処分となれば釈放されますが、検察官が起訴した場合には、自動的に被告人勾留(起訴された後の勾留)に切り替わり、裁判が終わるまで勾留が続きます。さらに注意ですが、被疑者に余罪がある場合には、その余罪で別途逮捕・勾留される可能性があり、上記の逮捕・勾留が繰り返されることがあります。

 そうなると、家族としては、身柄事件になってしまうと被疑者・被告人とは数か月もの間会うことができないという状態が続く可能性があります。

 

<家族による留置場への差入れ>

 留置場では、生活する上で最低限の物はありますが、被疑者・被告人の希望により、家族に衣類や書籍等の差入れをすることができます。私が刑事弁護をしている中で、被疑者・被告人が家族に対してリクエストする品のトップ3を紹介します。

 被疑者・被告人が希望する品として一番多いのは、着替えです。夏は汗をかくので枚数が必要ですし、冬は寒いので厚手の服が必要となります。ただし、紐が付いた服やベルト等は差入れすることできないので注意です。

 次に希望が多いのは現金です。留置場では、食品や日用品を購入することができます。シャンプーや歯ブラシといった衛生用品は長期間勾留されていると追加で購入する必要がありますし、便箋、封筒や切手といった郵便関連の品も使用頻度は高いです。

 3番目に多いのが眼鏡やコンタクトレンズです。コンタクトレンズについては、私が過去に担当した案件で1度だけ家族による差入れが認められなかったことがあります。それがどのようなコンタクトだったのかは分かりませんが、コンタクトの差入れに際しては留置場の警察官に事前に確認をした方が良いと思います。また、医薬品の差入れはできないので、定期的に診察に来る医師に目薬を処方してもらう必要があります。そのため、留置場でコンタクトを付けるのはかなり都合が悪く、個人的にはあまりお勧めしていません。

 なお、被疑者勾留では警察署内の留置場に勾留され、被告人勾留では法務省管轄の拘置所に移送されることになります。留置場と拘置所では、差入れのルールが異なる場合もあるので、差入れの際には確認が必要です。

 

<保釈されるのはいつ?>

 弁護人をやっていると、被告人の家族から、「“保釈”という言葉を聞いたことがあるんですけど…。」と、かなりの確率で言われます。保釈については被告人のみならず、家族の関心も高い印象です。なお、保釈は、起訴された後にしか行うことができないので、起訴前については主に勾留決定に対する準抗告という手続を利用します。

 保釈の流れとしては、弁護人が保釈請求書を裁判所に提出します。そして、裁判所は、保釈の要件を満たしているか検討して、保釈を許す決定または保釈を却下する決定をします。保釈決定は、保釈請求書を提出してから1~3日以内に出されることが多いです。保釈決定が出たらすぐに釈放される訳ではなく、保釈決定に基づき裁判所に保釈保証金を納めて、保釈保証金が納付されたという連絡が留置施設に届いた後にやっと釈放されることになります。

 スムーズな保釈をするためには、保釈請求書に添付する証拠資料を準備したり、保釈保証金のためにお金を工面しなければならないので、被告人の家族の協力は不可欠です。

 

<情状弁護>

 刑事事件では、その多くが認め事件です。この場合、被疑事実・公訴事実を争わないので、刑事弁護としても情状弁護がメインとなります。

 情状弁護では、身元引受人を用意して再犯を防止できる環境があることを主張をします。その際には、被疑者・被告人の家族に「身元引受人として、被疑者・被告人をしっかりと管理・監督して、二度とこのような犯罪をさせないようにします。」と一筆もらうことが多いです。身元引受人自体は誰でもよく、親戚、勤務先の社長・上司、友人でも構いません。個人的には、住んでいるところがあまりにも離れていたり、事件前の人間関係が希薄な人物だと説得力があまりない気がするので、同居している家族が望ましいと思っています。

 また、被害者との示談が成立しているかどうかも情状においては重要です。示談の際には被害者に示談金を支払うのですが、示談金の調達についても被疑者・被告人の家族に協力してもらうことが多いです。

 

<家族の視点に立っても接見は大事だということ>

 接見では、弁護人が逮捕・勾留されている被疑者・被告人に対して、取調べを受ける際のアドバイスをしたり、公判(刑事裁判)の打合せをしたりします。特に、起訴前に弁護人が接見するときには、被疑事実の認否、詳細な事実確認、情状といった法的な判断に関わる情報を重点的に聞き取ります。

 他方、一般人も面会することはできますが、時間は15分程度しかありませんし、また、接見等禁止の決定が付いていると弁護人以外は面会ができないという状況もあり得ます。

 そのため、私は、法的な情報収集だけではなく、家族からのメッセージを被疑者・被告人にこまめに伝えるようにしています。もちろん事件に影響するような内容は話すことはできません(※この点は、被疑者・被告人、その家族にはも強く忠告します。)

 家族からの仕事や日常生活に関わる伝言は、個人的にとても大事なことだと感じています。例えば、家族で自営業をしている場合、被疑者・被告人が勾留中であっても仕事を止める訳にはいかないので、残った家族で一生懸命穴を埋める必要があります。被疑者・被告人が代表者だったり、単独で担当している業務がある場合には、被疑者・被告人に指示を仰がないといけません。被疑者・被告人から業務に関する指示を伝達するためには、弁護人の接見が大事になってきます。私が過去に担当した案件でも、できるだけ細かく接見に行って、被疑者・被告人が勾留されている間の仕事の進め方を伝達したことで、何とか乗り切ったことがありました。

 また、被疑者・被告人が逮捕・勾留されている間も、残された家族は日常生活を続けています。被疑者・被告人に小さい子どもがいる場合、子どもは親が逮捕・勾留されていることを理解していないこともあります。そのような状況で、被疑者・被告人は、配偶者との間で「親が逮捕・勾留されていることを、子どもに伝えてもよいのか」という話し合いもする必要があるかと思います。結論自体は夫婦で決めてもらうしかありませんが、夫婦で日常生活に関する話し合いをするためにも弁護人による伝言は重要だと考えています。

 

<さいごに>

 刑事弁護の基本は防御なので、どうしても被疑者・被告人に我慢を強いることが多く、被疑者・被告人の家族にも色々な場面で我慢してもらうことは多いです。そのような状況だからこそ、弁護人は、フットワーク軽く、被疑者・被告人の家族にも密にコミュニケーションを取る必要があるのです。

 また、刑事事件のほとんどは認め事件(被疑者・被告人が被疑事実・公訴事実を認めている事件のこと。)であり、このコラムでも認め事件を念頭に書いています。

 しかし、被疑者・被告人が否認している事件も当然あります。認め事件でも否認事件でも弁護人が接見に行く負担は変わりませんが、否認事件では、被疑者・被告人とその家族の心理的な負担が桁違いになります。それに伴って、否認事件における弁護人の接見の重要性も当然高まります。

 そのため、刑事弁護を依頼するときは、弁護士に対する第一印象やフィーリングはかなり大事なのではないかと思っています。ここに違和感を感じてしまうと、弁護人とコミュニケーションを取ることに後ろ向きになってしまい、結果的に有効な弁護活動にマイナスな影響が出てしまう恐れがあります。

 弁護士はどうしても癖のある人が多いので、色々な弁護士に実際に会ってみて依頼するかどうか検討してみてください。

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