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2025/09/08 2025/09/17

【弁護士コラム・離婚①】 知っておきたい財産分与の基本

【弁護士コラム・離婚①】

知っておきたい財産分与の基本

 

<はじめに>

 今回は、財産分与について解説します。

 開所をしてから離婚に関するご相談が多く来ているのですが、ほとんどの方が「財産分与」という制度をきちんと理解していないと感じました。

 このコラムでは個々の論点を深く掘り下げるのではなく、基本的な事項をまんべんなく解説し、財産分与の全体像が把握できるようにしています。

 離婚するか悩んでいる方は、離婚に伴う金銭面に不安があるでしょう。そのような不安を解消できるヒントがあるはずなので、ぜひ最後まで読んでください。

 

<財産分与の性質>

 そもそも、財産分与には3つの性格があると言われています。

夫婦の共有財産を清算する性格(清算的財産分与)、離婚後の扶養としての性格(扶養的財産分与)、精神的苦痛に対する慰謝料としての性格(慰謝料的財産分与)の3つです。

 これらのうち、財産分与で主な機能を果たしているのが清算的財産分与です。扶養的財産分与や慰謝料的財産分与については、当該離婚に際してそのような特殊事情が存在すれば考慮されるものであり、必ずしも考慮される訳ではありません。

 多くの離婚では清算的財産分与を目的に行われているので、以下の解説でも清算的財産分与を前提に説明をしています。

 

<財産分与では夫婦で何を分けるのか?>

 離婚相談を受けていると、相談者の大半から「財産分与では何を分けることになりますか?」と質問をいただきます。

 その答えとしては、「婚姻期間中に形成した財産は基本的に全て分けることになる。」です。例えば、預貯金、不動産、保険の解約返戻金、有価証券などが挙げられます。また、自動車、家具類といった動産類も対象になります。

 そのため、婚姻期間中に増えたものや購入したものは、一方の配偶者固有の財産(特有財産といいます。)でない限りは、財産分与の対象として夫婦で分けることになります。

 なお、財産分与の割合は、原則として夫婦で50%ずつになります。これは後述する改正民法でも同様です。

 

<住宅ローンは分けることができるのか?>

 財産分与で大きな問題となるのが、婚姻期間中に居住用の不動産を購入しており、住宅ローンを組んでいる事案です。

 近年増加しているパワーカップルであれば、夫婦でペアローンを組んでいることが多いでしょう。ペアローンの場合、自宅を売却または一方の配偶者が単独で取得しない限りはそのまま2人でローンを負担することになります。ただし、元夫婦で同居することはほぼあり得ないですし、そもそも1人ではローンが払えないからこそペアローンを組んでいるので、自宅を売却せざるを得ないケースが多数です。

 他方で、夫が主に収入を得ており、妻が専業主婦またはパートで勤務している夫婦の場合には、夫が単独名義でローンを組んでいることが多いかと思います。そうなると、夫は、家族と過ごすために購入した広い自宅を持て余し、不必要な住宅ローンを1人で支払っていかなければなりません。自宅を売却するにしても、東京などの一等地でなければオーバーローンになる可能性が高く、負債だけが残ってしまいます。このような状況の場合、夫としては、妻にも住宅ローンを負担してもらいたいと考えるのが自然ですが、果たして財産分与で住宅ローンを夫婦で分けることはできるのでしょうか。

 結論として、住宅ローンを夫婦で分けることはできないと考えた方が良いです。

 そもそも、負債を財産分与の対象とできるのかについては、学説や裁判例で争いがあります。夫婦や子どもの共同生活のために負担した債務については、公平の観点から、夫婦で責任を負うべきだという考え方があり、一部の裁判例や実務本でもそのような考え方が採用されているものがあります。

 しかし、実際の実務では、“財産分与は、婚姻期間中に形成したプラスの財産のみを分けるのであり、マイナスを分けることはしない”という考えが未だに根強く残っています。実際に、多くの調停でもそのような運用がされていますし、実務本の大多数もそのような考え方に則っているといえるでしょう。

 

<ローンを負担するだけで何も貰えないのか?>

 では、住宅ローンを組んでいる夫は、財産分与で何も貰えないのに住宅ローンを支払い続けなければならないのでしょうか。

 この場合、住宅ローンが残っている自宅を取得する夫は、妻に対して、婚姻時から別居時までの預貯金の増加分を分与するよう要求することが考えられます。例えば、自宅の価値が1500万円、住宅ローンがまだ2000万円残っているとします。夫が自宅を取得して住宅ローンを払い続けることになる場合、オーバーローン状態ですので妻に分与する財産はないということになります。

 妻が専業主婦やパートの場合、多くの家庭では妻が家計の管理をしており現金、キャッシュカード、保険証券といった財産を持っています。例えば、妻が、婚姻時から別居するまでに貯めていた現預金や保険の解約返戻金など1000万円を管理・保有していたとします。これは、まさしく婚姻期間中に形成した財産ですので、妻は夫に対して、その半分の500万円を渡さなければなりません。そのため、夫は、長期的な視点で見ると住宅ローンという大きな負債を負うことにはなりますが、財産分与という短期的な視点で見ると現預金を貰えるというメリットもあります。

 ペアローンの例で出したように、自宅を売却してしまうという手段もあります。ローン額を超える金額で売却できればその代金を夫婦で半分ずつ分けることになりますが、売却してもローンが残ってしまう場合には夫は負債のみを抱える状態となるので、やはり妻に分与する財産はないということになります。

 

<夫婦の名義ではない預金はどう扱うのか?>

 先ほど、婚姻期間中の預貯金は財産分与の対象となると説明しましたが、例えば、子どもの将来のために貯めている子ども名義の預金も分けるのでしょうか。

 結論としては、子ども名義の預金も財産分与の対象になります。このような預金も、夫婦の共有財産から積み立てているからです。

 ただし、お年玉やお小遣いなど、明確に子どもに「贈与した」と評価できるような金銭であれば、夫婦共有財産ではなく子ども固有の財産に当たるので、財産分与の対象から外れる可能性はあります。しかし、実務では、子ども固有の財産と判断できる証拠がほとんどないため、財産分与の対象になることが多いです。

 なお、学資保険についても、別居時までに増加した解約返戻金相当分が財産分与の対象となります。

 

<家具や自動車はどのように分けるのか?>

 財産分与では、家具や自動車といった動産類も対象となります。しかし、真っ二つに切って半分ずつ持っていく訳にもいきません。このような動産類はどのように分けるべきでしょうか。

 結論としては、動産を売却してその代金を分けるか、動産の価値を算定して一方が当該動産を取得し、その価値の半分を他方の配偶者に現預金で払うことになります。

 貴金属、ジュエリー、高級家具などは鑑定がしやすいので価値の算定は比較的容易かと思います。自動車も、買取業者に見積りを取れば、売却価格が分かります。

 他方で、高級ではない年季の入った家具や古い電化製品といった価値が分かりにくい、価値が付かないものについては夫婦の話し合いで決めることが多いです。一方の配偶者が別居している最中に、他方の配偶者宅に私物を引き取りに来ることがあり、引き取りの際に古い家具や電化製品をどちらが取得するのか夫婦間で争いになることがあります。

 このような場合、お互いに譲歩ができないのであれば新たなトラブルの火種になりかねませんので、その場で決めるのではなく調停で話し合うことをお勧めします。

 

<財産分与の話がまとまらないと離婚できないのか?>

 財産分与は離婚をする際の重要な要素ではありますが、財産分与の話がまとまらなくても離婚はできます(子がいる場合には親権を決めなければ離婚できませんが、それ以外は決めなくても離婚ができます。)。

 現行法(令和7年9月8日執筆時点)では、離婚の時から2年以内に財産分与請求をしなければなりませんが、民法の改正によって請求期間が5年に延長されました。そのため、改正民法施行後は、離婚から5年以内に財産分与請求すればよいということになります。

 特に、DVや児童虐待が疑われる事案では離婚を先行させる必要性が高くなります。まず離婚をすることで身の安全を確保し、その後に腰を据えてじっくりとお金の話をするようにしましょう。

 

<財産分与の制度が大きく変わる>

 財産分与請求の期間制限について改正があったことを説明しましたが、それ以外にも大きな改正点があります。

 民法768条3項は「家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」と改正されました。

 実務では、夫婦の共有財産への増加・維持の貢献度を基本的に50%ずつとする(2分の1ルール)考え方を採用しており、実務上の運用がそのまま明文化されました。そのため、例えば妻が専業主婦またはパートであっても、共有財産への貢献度は50%ですので、財産分与として半分が貰えることになります。

 また、家事事件手続法も改正されたことによって、財産開示の実効性が高くなりました。同法152条の2によって、家庭裁判所は必要があるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対して、その財産の状況に関する情報を開示することを命ずることができます。そして、開示を命じられた当事者が、正当な理由なくその情報を開示せず又は虚偽の情報を開示したときは、十万円以下の過料に処せられることになります。

 このように、今回の法改正は制度に与える影響が大きく、施行後に財産分与をした方が有利になる可能性もあります。そのため、場合によっては離婚のタイミングを遅らせて、改正後の財産分与請求をするという戦略も考えられるのです。

 

<おわりに>

 離婚は、当事者で話ができるのであれば協議離婚が成立します。多くの夫婦は協議離婚で離婚をしますが、離婚の条件について合意ができないという事案は少なくありません。

 特に、婚姻費用、養育費、財産分与は生活に直結する事項なので、安易に話をまとめてしまうと、後々自分の首を絞めることになりかねません。分からないことがある場合には、まず弁護士に相談をしてみるのが良いでしょう。

 天白区や緑区、名古屋市近郊(豊明市、東海市、大府市)の方はぜひ弊所までご相談いただければと思います。

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