【弁護士コラム・離婚②】財産分与における自宅の扱い
<はじめに>
前回の離婚のコラム①「知っておきたい財産分与の基本」の中で、離婚時に夫婦で住宅ローンを分けることができるのかについて触れています。二回連続で財産分与、特に自宅(持ち家)について触れているのには理由があります。
その理由としては離婚時に一番まとまった金額が動く可能性が高いのが財産分与であり、また、自宅は特に高額な資産ですので、財産分与における処理が非常に重要だからです。
皆さんがよく関心を持つのは婚姻費用や養育費かと思います。もちろん、婚姻費用や養育費は継続的に支払われるお金であるため、長期的に積み重なれば金額が大きくなりますし、特に、子どもの生活費が含まれていることも考えると非常に重要な項目です。
しかし、財産分与は離婚の協議をしている時点から考えるとかなり近い将来の話ですし、一般的な夫婦であっても数百万円のお金が動くことが珍しくありません。
予測可能性が高く、動く金額も高いとなれば必然的に検討の優先度は上がります。以下、財産分与における自宅の取扱いについて解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
<基本的なルール>
大前提として、財産分与の対象は婚姻期間中に形成した財産です。そのため、自宅についても基本的には婚姻期間中に購入したものでなければならず、婚姻前に購入していたのであれば特有財産(一方の配偶者固有の財産)ということになり、原則として財産分与の対象にはなりません。
ただし、自宅を婚姻前に購入していたとしても、婚姻期間中に住宅ローンを返済している場合には、自宅も財産分与の対象になり得ます。なぜなら、購入していない配偶者も、婚姻期間中に資産形成(この場合、住宅ローンを返済して自宅(不動産)という資産を取得すること。)に寄与したと評価されるからです。これは、配偶者が家事専従者の場合も当てはまります。
財産分与の対象になる範囲は、別居時点の自宅の時価に、住宅ローンの総額に対する婚姻期間中のローンの返済額の割合を乗じて計算すれば算出できます。婚姻期間とローンの返済期間が重複している夫婦が多いので、自宅が財産分与の対象になる可能性は高いと言えます。
<住宅ローンの負担がある自宅の処分について>
離婚時に住宅ローンを完済していれば自宅の時価額の半分の価値を夫婦で分けるだけですが、多くの夫婦は離婚時に住宅ローンが残っているでしょう。離婚のコラム①「知っておきたい財産分与の基本」でも言及していますが、住宅ローンの負担がある自宅の処分方法は3つあります。
1つ目は、財産分与で自宅を夫婦共有にし、二人でローンを返済し続けていくというものです。
最もシンプルな方法ではありますが、当然ながら離婚する夫婦は別居するのが圧倒的多数です。そうなると、一方の配偶者は自分が住まない自宅のローンを支払うことになるので、通常は受け入れません。そのため、この方法を取る夫婦は非常に少ないです。
2つ目は、配偶者の一方が単独で自宅を取得し、一人でローンの返済を続けるというものです。自宅がオーバーローン状態であれば、自宅を取得する側はその他の資産を合わせてもマイナスになることが多いです。この場合、ローンの負担のある自宅を取得する配偶者は、他方の配偶者から、預貯金や保険解約返戻金相当額の半額を現預金で貰うことができます。
逆に、東京のタワーマンションのように不動産価値が極めて高い場合には、時価額がローンを超えることも想定され、その場合にはローンを超える価値の半分を他方の配偶者に支払わなければなりません。また、元々ペアローンを組んでいた夫婦では、配偶者一人では支払えない金額のローンを組んでいる可能性が高いです。そうなると、住宅ローンの名義を単独に変更する時に審査が通らないこともあり、そもそもこの方法を取ることができません。
3つ目は、自宅を売却して住宅ローンの弁済に充てるというものです。もし売却できた値段が住宅ローンを超えるのであれば、売却で出た利益が財産分与の対象になります。自宅を売却しても住宅ローンが残った場合には、その他の資産と合わせてプラスになればその価値を半分にしますし、マイナスになれば財産分与は発生しません。
以上、住宅ローンの負担がある自宅の処分方法を3つ紹介しましたが、多くの夫婦は2つ目か3つ目の方法を取ります。2つ目の方法を取る夫婦は、そもそも一方の配偶者の名義で住宅ローンを組んでいることが多いです。
どの方法を取るべきかは、自宅以外の資産がどれくらいあるのか、夫婦のどちらがどんな資産を保有しているかによって変わりますので、弁護士に相談することをオススメします。
<別居する子どもに自宅を使わせる場合>
夫婦に子どもがいる場合、子どもの学区や交友関係を考えて“子どもが一人立ちするまでは自宅に住み続けさせたい”という夫婦もいます。このようなケースで、離婚後の自宅をどのように扱うべきでしょうか。
この場合、住宅ローンの負担がある自宅の処分方法の1つ目と2つ目の方法により対処するしかありません。ただし、いずれの方法を取るにしても夫婦間で合意をしなければならず、合意ができなければ離婚後に子どもを自宅に住まわせることはできません。
1つ目の方法では、親権を取った配偶者が子どもと一緒に自宅に住み続けながら住宅ローンの半分を負担していくことが考えられます。別居する配偶者は、自分が住まない自宅に住宅ローンを支払うことになりますが、子どものためであれば構わないという方もいらっしゃるかもしれません。ただし、子どもが自立した後は自宅を所有し続ける必要性が低くなりますし、共有の不動産は売却がしづらいことを考えると結果的に資産形成にも向いていません。
2つ目の方法では、親権を取った配偶者が子どもと一緒に自宅に住み続けながら住宅ローンの全額を負担していくことが考えられます。親権を取った配偶者に十分な収入があれば良いのですが、現実ではこのようなケースは稀です。
むしろ、実務では専業主婦・時短勤務の妻が親権を取り、家庭の収入のほとんどを稼ぐ夫が自宅の所有者で住宅ローンの名義人であることが多いでしょう。このような場合、親権を取る妻が単独で住宅ローンを支払うことは不可能ですので、夫が、妻と子どもに自宅を貸し出すような形を取らざるを得ません。
元妻とはいえ離婚した後は親族ではなくなりますので、無償で貸す(未成年は契約の当事者にはなることができないので、賃借人はあくまで元妻になります。)というのは、経済合理性を考えても難しいでしょう。そうなると、元妻に対して、賃料を支払ってもらい、その賃料を住宅ローンの返済に充てていくことになります。
ただし、自宅を所有する場合には、住宅ローンの返済だけではなく火災保険料や固定資産税がかかり、自宅の修繕費もかかってきます。また、夫は、自宅とは別の賃貸を借りることになるので、別途自分の賃料もかかります。
養育費の金額を決める際に、自宅を所有していない妻が離婚後も自宅に住み続けるようなケースでは、住宅ローンを支払う夫の負担を考えて養育費を減額することができますが、上記の負担を考えるとあまりオススメはできません。
<配偶者の親の土地に自宅を建てた場合>
さらに厄介なケースが、配偶者の親の土地に自宅を建てた場合です。妻の実家の土地が余っているので、土地代を節約する目的で妻の親が所有する土地の上に、夫の名義で自宅を建てるというのはよくある話です。
当然の話ですが、夫が、妻と離婚した後に妻の実家の土地上にある自宅に住み続けるということは不可能でしょう。そうなると、妻の実家の土地上にある自宅は妻が住み続けるしかありません。この場合、財産分与で自宅はどのように処分したら良いでしょうか。
このようなケースでは上記で紹介した方法が役に立ちません。
まず、3つ目の自宅を売却して住宅ローンの弁済に充てるという方法については、土地が借地ですので建物自体に市場価値がなく売却ができません(付言すると、このようなケースでは実家の建物と同じ敷地内に夫婦の自宅を建てることが多いです。敷地の入口があって、その先に家が2棟ある訳ですが、その敷地内は完全に妻の実家のプライベートな空間であって、第三者が容易に入ることができない状態であることは明らかです。)。そうなると、自宅の所有者である夫は、住むことができない自宅にローンを支払い続けることになります。1つ目の財産分与で自宅を夫婦共有にし、二人でローンを返済し続けていくという方法も同様です。
2つ目の方法で、妻に単独で自宅を取得してもらい、ローンの名義人を妻に変更するというのが理想ではありますが、妻が専業主婦・時短勤務の場合にはローンの審査に通りませんので、名義変更ができないことも多いです。妻の親が買い取ってくれれば解決しますが、金額面や人間関係を考えるとやはり売却は容易ではありません。
以上より、配偶者の親の土地に自宅を建てた場合には自宅の財産分与が非常に難しいことが分かっていただけたと思います。
“配偶者の親の土地に自宅を建てるような関係であれば、夫婦仲や親族との関係も良好であり離婚する可能性は低い”という一般論はあり得るかもしれませんが、弁護士目線では「危ないことをしているな」と思っています。
<実家の援助から援助して貰った自宅はどうなるのか>
これもよくある話ですが、住宅を購入する際の頭金を一方の配偶者の実家から援助して貰ったという場合には、財産分与の際に何らかの影響を及ぼすでしょうか。
結論としては、基本的に財産分与に影響はないと思われます。一見すると、頭金を出した実家側の配偶者の特有財産になるのではないかと思うかもしれません。
しかし、多くのケースでは援助した実家と夫婦との状況(ex.婚姻の前後や、子どもが生まれた時に自宅を購入しているのであれば、親族としての厚意で援助していると考えるのが自然でしょう。)からすると、頭金の援助は贈与(タダであげること。)と考えることができます。贈与したということは、その頭金はあくまで夫婦二人の物ですから夫婦共有財産ということになります。
<おわりに>
以上のように、財産分与において自宅をどのように処理するかで、夫婦間のお金の動きが大きく変わります。
また、近年は住宅ローンの金利も上昇しており、離婚した後に単独で住宅ローンの負担のある自宅を所有し続けるのはかなり難しいと思います。その場合には、自宅を早めに売却してしまうことも考えるべきでしょう。
天白区や緑区、名古屋市近郊(豊明市、東海市、大府市)の方はぜひ弊所までご相談いただければと思います。