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2025/11/17

【弁護士コラム・相続②】遺産分割協議でぶり返す相続人間の遺恨

【弁護士コラム・相続②】遺産分割協議でぶり返す相続人間の遺恨

 

<はじめに>

 「終活」というワードが広く使われるようになり、世間の相続に対する関心は高くなってきました。

 しかし、終活も虚しく、相続人間で遺産を巡る骨肉の争いになっている事案は多いです。相続事件を担当していると、各相続人は単純に“遺産を多く貰いたい”という気持ちよりも“今までアイツは親孝行も何もしていないのに遺産を受け取るのはおかしい”とか“私と比べてアイツは親から色々と援助してもらっていたので不公平だ”という積年の恨みが出ているという印象を受けます。

 そのような事案では、法定相続分で平等に分けるのではなく、自己の相続分を増やすまたは他の相続人の相続分を減らす主張をすることがあります。このコラムでは、よくある事例を踏まえながら相続分に関わる解説をします。

 

<何もしなかった相続人も同じ相続分をもらえるのか>

 よくある事例として、2人姉弟の姉が実家で母を献身的に介護していたとします。他方で、弟は全く実家にも寄り付かず援助もしていません。やがて母が亡くなり、姉は自分が遺産を単独で相続すると思っていたところ、弟が母の死亡を聞きつけて現れたかと思いきや法定相続分の1/2を渡せと主張してきました(父は母が死亡する数年前に死亡しており、父の相続については問題がなかったことを前提とします。)。母の遺言書もなく、弟が執拗に法定相続分を主張してきた場合、姉は弟の要求に応じないといけないのでしょうか。

 このような場合、姉としては、弟に対して寄与分の主張をすることが考えられます。

 民法の条文では、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする」 (民法904条の2)と書かれています。

 要するに、相続財産の維持または増加に貢献した相続人は、他の相続人よりも先にその貢献した分の相続財産を受け取ることができるのです。寄与分が認められるためには、①相続人自らの寄与があること、②当該寄与行為が「特別の寄与」であること、③被相続人の財産が維持または増加したこと、④②と③との間に因果関係があることが要件となります。

 寄与行為は大きく分けて5パターンに分けられます。

❶家事従事型…被相続人の事業に無償で従事すること

❷金銭等出資型…被相続人に対して財産上の給付をすること

❸療養看護型…病気療養中の被相続人の療養看護に無償で従事すること

❹扶養型…法律上の扶養義務を超えて被相続人を扶養すること

❺財産管理型…被相続人の財産を無償で管理すること

 ここでポイントなのは、上記の寄与行為が「特別の寄与」であるという箇所です。単なる寄与ではなく、特別の寄与である必要があります。

 例えば、姉が、毎日母の分の食事の支度や洗濯をしてあげたり、通院やデイサービスの送り迎えをしてあげていたとします。この場合、❸療養看護型に該当するとして、「特別の寄与」と言えるでしょうか。

 実務上、姉が母の身の回りをするだけでは「特別の寄与」をしたとまでは評価されない可能性が高いです。理由としては、これらのことは、同居する家族であれば通常行われるような内容のものであり、相続財産の維持・増加に大きく貢献した、つまり「特別の寄与」をしたとまではいえないと説明されます。もし、母が要介護3の認定を受けており、数年もの間、無償で日常生活のほとんどの行動を介助していたのであれば、「特別の寄与」に当たると思われます。

 そうすると「寄与分のことだけ考えるならば、中途半端に介護をするくらいなら何もしない方が得じゃないか」となってしまいます。このような不均衡を解決するためには、被相続人に対して、身の回りの世話を引き受けた相続人に多くの遺産を相続させるような内容の遺言を書いてもらうしかありません。

 もちろん、強制的に姉に有利になるような遺言を書かせることはできませんが、「特別の寄与」に当たらない場合に備えて、被相続人に貢献度をしっかりと認識させた上で、法的に有効な遺言を残してもらう必要があるのです。そうなると、被相続人との日頃のコミュニケーションはとても大事だといえます。

 やはり「相続は人間の感情から逃れられない」としか言いようがありません。

 

<ずっと贔屓されている相続人がいる>

 上記の苦労人の姉の話が続きます。母は生前、起業する弟のために1000万円の贈与をしていました。他方、姉は堅実に生活をしていたため、母から援助を受けたことは一切ありませんでした。これまで1000万円もの援助を受けた弟が、遺産分割協議でも法定相続分を主張してきた場合、姉は弟の要求に応じないといけないのでしょうか。

 このような場合、姉は、特別受益の主張をすることが考えられます。

 条文では「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」(民法903条1項)と書かれています。

 要するに、被相続人から特定の相続人に対して贈与した財産を一度相続財産に戻した上で総額を算定し、相続分に応じて分割をした後、贈与を受けた相続人は相続分からその贈与分を受けた分を引くのです。

 上記の例で、母の遺産として2000万円が残っていたとします。弟が母から贈与された1000万円は遺産に組み込まれ、遺産全体を3000万円と評価します。法定相続分は1人あたり1500万円ですが弟は既に1000万円の特別受益がありますので、1500万円から1000万円を控除した500万円しか貰えません。姉は1500万円を貰えますので、遺産分割の取り分としては平等にすることができます。

 

<遺産分割における証拠の乏しさ>

 ここまで寄与分や特別受益といった、相続人間の相続分を調整する制度を解説しましたが、これはあくまで証拠が揃っている前提のお話です。

 現実では“そもそも母は生前どのような状態だったのか”、“姉がどのような介護をしていて、母のために何にいくら支出したのか”、“弟が1000万円の贈与を受けたことを裏付ける資料はあるのか”、“姉は本当に母から何らの援助も受けていなかったのか”など事実に争いが生じます。

 母の生前の手書きのメモや、通帳の取引履歴、利用していた施設の契約書や記録、あらゆる資料が証拠となりますが、実際には何も資料が作られていなかったり、破棄されてしまっていることも多いです。当事者の供述も一応証拠ではありますが、各自が自分に有利なことしか言いませんので、信用性は低いです。そうなると、争いのある事実について立証することができないので、上記の主張をしたい当事者にとって不利になってしまいます。

 証拠が重要なのは相続に限りませんが、相続に関わる話し合いは、親族間で直接対面で話をすることが多く、証拠が残りづらいのが特徴です。このコラムを読んでいる皆さんは、日頃から色々な資料を残しておく癖を付けてください。

 

<さいごに>

 遺産分割協議では人間の感情が渦巻き、本来は良好だった人間関係が一気に悪化することもあります。そういう時こそ、できるだけ早く相続人を集めて遺産分割協議を行ったり、裁判所に遺産分割調停を申し立てて手続を進めてしまうのが良いのではないかと思っています。

 一番やってはいけないことは遺産分割を放置することです。遺産分割が未了のまま相続人が死亡すると、その相続分がさらに次の相続人に相続されていき、相続分がどんどん細分化されていきます。

 相続人の人数が増えてしまうので話がまとまりにくくなってしまい、また、1人当たりの相続分も少ないので費用対効果もどんどん悪くなっていきます。そのような状況で弁護士に依頼をしたとしても、遺産分割協議をまとめるのにはとても時間がかかりますし、弁護士費用も高くなってしまいます。

 「面倒なこと、嫌なこと、気まずいことに早く手を付けて終わらせる」。遺言作成や遺産分割協議など相続で気になることがあれば、早めに弊所までご相談ください。

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