【弁護士コラム・交通②】過失割合の基本的な考え方
<はじめに>
今回は交通事故における過失割合について解説します。交通事故の相談を受けていると、
“SNSや一般の方が書いたブログで「こちらが止まっていれば過失が認められることはない」と書かれていたのを見た。衝突する前に停止した自分に過失はない”
“事故直後に現場に駆け付けた警察官から「相手の運転手の不注意ですね。」と言われたので、自分に過失が認定されるのはおかしい”
と言う方が散見されます。
しかし、交通事故事件において、過失割合は事故態様によってパターン化されており、事故態様の多くは被害者側にも過失が出ます。「被害者=無過失」と考えている人も少なくなく、過失割合を一般の方に分かりやすく説明するのは意外と難しいです。
本コラムでは、交通事故における過失割合の基本的な考え方を解説するとともに、典型的な事故態様を具体例に挙げて分かりやすく説明します。
<そもそも過失とは>
過失とは、交通事故事件だけに出てくるものではありません。民法上「過失」は“結果予見義務と結果回避義務に違反すること”と通説では説明されます。
すなわち“結果を予見し、かつ、結果を回避することができたにもかかわらず、これらを怠った”ことが過失なのです。
交通事故において加害者はもちろんのこと、被害者も交通事故が起きるかもしれないということを予見し、事故を回避する義務が課せられているのです。
自動車教習所で「“かもしれない運転”を心がけましょう。」と教わった方も多いかと思いますが、“かもしれない運転”は結果予見義務そのものと言えるでしょう。
<無過失の典型例>
被害者側が無過失とされる典型例が追突です。
追突事故は、加害者側の前方不注視(道路交通法70条)や車間距離不保持(同法26条)等の一方的な過失により発生します。
ただし、道路交通法24条は「車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。」と定めており、理由のない急ブレーキを禁止しています。すなわり、前方を走行する車両が急ブレーキをかけると、後方を走行する車両が追突してくるのは予見可能であり、また、急ブレーキをかけるやむを得ない理由もないのであれば追突を避けることは可能なはずということです。
したがって、追突事案であってもこのような事故態様では、被害者側に過失が出ます(上記詳細については、『別冊 判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版 東京地裁民事交通訴訟研究会編』判例タイムズ社)
<加害者に明らかな交通違反があったとしても被害者側に過失はあるのか>
追突で被害者に過失がないのは、一般の方の感覚からしても妥当かと思います。
では、加害者に明らかな交通違反があれば、被害者に過失が認められることはないのでしょうか。
信号機のない十字路交差点があり、被害者車両と、加害者車両がそれぞれ交差点に向かって直進しているとします。加害者車両が走行する道路には一時停止規制があり、被害者車両が走行する道路には一時停止規制はありません。被害者は、加害者車両道路の一時停止規制に気づき、「こちらが優先道路だから相手は止まるだろう。」と考えて交差点に進入しました。しかし、加害者車両が一時停止することなく、交差点に進入し出会い頭に衝突してしまいました。
このような事故態様では、基本的な過失割合は被害者:加害者=20%:80%となります(上記詳細については、『別冊 判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版 東京地裁民事交通訴訟研究会編』判例タイムズ社)。
これに対して、「相手は一時停止をしなければならないのに標識を無視して交差点に進入してきた。自分に過失が認められるということは、こちらが回避したり停止しなければならないことになる。それはおかしい。」と言う人がいます。
この点について、道路交通法36条4項は「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と定めています。
つまり、優先道路を走行する車両であっても漫然と走行をして良い訳ではなく、交差点の状況に注意を払い、事故の危険を察知した場合には回避行動を取ったり停止しなければならないのです。
もちろん、どのような回避行動や停止をすべきかはケースバイケースですが、少なくとも相手に交通違反があっただけで被害者側が無過失になる訳ではないことに注意が必要です。
<さいごに>
交通事故の過失割合については保険会社担当者と被害者で揉めることが多く、示談で話がまとまらない場合には訴訟をして、裁判所に過失割合を決めてもらうしかありません。
もっとも、上述のとおり、交通事故事件において過失割合は事故態様によってパターン化されていますので、既にパターン化されている事故態様について過失割合を争うのはあまり実益がありません。
基本過失割合には修正要素があるので+-5~10%の修正をしようとしたり、パターン化されていない事故態様の過失割合を決めるには、訴訟提起することが多いと思います。
過失割合を争う事案であっても損害額が低い場合には、弁護士費用の方が高くつくことも多いです。そのため、自動車保険には弁護士費用特約を付けることを強くオススメします。