【弁護士コラム・交通事故①】
むち打ちが残りそうな怪我の治療
<はじめに>
第3回は交通事故を取り扱います。
このコラムでは、交通事故の被害者が治療を受ける際の注意点などを解説したいと思います。私がかつて所属していた法律事務所では交通事故の取扱いが非常に多かったので、事件を担当する中で感じた改善点や役立つ情報を弁護士目線でまとめました。
交通事故の怪我には様々なものがありますが、交通事故の中でも特に多い追突事故でのむち打ちを念頭にコラムを書いています。実際に治療を受けるときには重要なポイントになってきますので、ぜひ参考にしてください。
<病院はできれば交通事故の当日に行くこと>
当たり前ですが、交通事故に遭ったらすぐに病院に行ってください。
例えば、“交通事故の衝撃で首が痛いけど、今日は近くのクリニックが休診日だな…。次の土曜日の午前に営業しているから、3日後に行こうかな…”などと考えてはいけません。
なぜなら、交通事故発生日と初診日が離れていると、交通事故と治療の因果関係が分からなくなってしまうからです。すなわち、保険金を支払う相手方の保険会社から、その怪我が交通事故とは別のきっかけで負ったものではないかと疑われてしまうことがあるのです。
そもそも、むち打ちは、交通事故直後はそこまで痛くなくても、数日経過するとだんだんと痛みや違和感が出てくることがあります。そのため、交通事故に遭った時には当日に痛みがないとしても、大事をとって当日に病院に行ってください。もし、どうしても交通事故当日に病院に行けない事情があるのであれば翌日でも構いませんが、日にちが空くほど上記リスクは高くなりますので、むやみに先延ばしにするのは止めましょう。
なお、通勤中の交通事故に関しては労災の対象になりますので、労災をきちんと申請するためにも、すぐに会社に報告を入れて病院を受診する旨連絡しましょう。
<整形外科しか行けないのか>
むち打ちになった人の中で頭痛が出てきたり、気持ちが悪くなる人は一定数います。このような症状も、むち打ちが原因の可能性がありますので、医師の診察を受けた方が良いでしょう。交通事故で病院に行くときは、基本的に整形外科になりますが、別の診療科(脳神経内科など)の病院に行くことも可能です。この場合にも、症状を自覚してから早めに受診しないと、相手方の保険会社に因果関係を否定される恐れがあるので、注意してください。
交通事故の被害に遭うと、多くの場合には相手方の保険会社が一定期間は通院の治療費を病院に直接払ってくれます。これを一括対応といいますが、一括対応がされている場合には整形外科の医師に診断書を書いてもらい、相手方の保険会社の担当者にも“整形外科医の診断書を取った上で別の診療科の病院を受診する”旨伝えてください。これを怠ると相手方の保険会社から“交通事故とは関係ない治療費を請求しているのではないか”と疑われてしまいます。
後遺障害が残るようなむち打ちには複数の症状が出ることがあるので、クリニックだけではなく、総合病院での診察も選択肢になるでしょう。
<整体院や接骨院はどうか>
交通事故で怪我をしたときに整形外科の他に、整体院や接骨院、カイロプラクティックなどに行く人もいます。
これらの施術を受けた費用については、交通事故と費用との因果関係が認められないとして、基本的には相手方の保険会社は対応してくれません。その理由としては、これらは東洋医学に基づいており、西洋医学と異なり科学的な説明をすることが難しく、施術効果が本当にあるのか確認することができないからです(※このような施術自体を否定している訳ではありません。あくまで、賠償の対象にならないという話です。)
ただし、医師の指示があれば、上記の施術費用が損害として認められる可能性はあります。医師の指示があったとしても無制限に認められる訳ではなく、あくまで整形外科の治療・リハビリの補助的なものとして利用することになります。
おまけですが、湯治という目的で、温泉施設に行く人もいます。確かに、温泉に浸かると筋肉があったまって気持ちが良いのかもしれませんが、医学的な根拠はないため、入浴料金が損害として認められる可能性はほとんどありません。
私が依頼者に「なぜ整体に行くのか?」と質問をしたことがあるのですが、ほとんどの人が「整形外科のリハビリでは効いた気がしない。」と答えていました。また、整形外科のリハビリをしている依頼者から「今のクリニックのリハビリで良くならないので、他のクリニックに行きたい」と言われたこともあります。
その際には、私は「整形外科で行われている保険診療は標準治療であり、医学的な効果が確認されている信頼性の高いものであるから、今の治療・リハビリを継続した方がよい」と答えています。また保険診療である以上、どこの病院でも同じ治療・リハビリですので病院を変える実益はありません。治療・リハビリを続けても痛みがなくならないという点については“怪我の程度が重く、後遺障害になる恐れがある”という可能性を考えるべきであり、必ずしも治療が悪い訳ではないと考えています。(だからといって、必ず後遺障害申請が通る訳でもないのですが。)
<医師に症状を正確に伝える>
特に後遺障害申請の時に問題になるのですが、「依頼者の通院当時の自覚症状と、病院のカルテに書かれていた記載との間に齟齬が生じている」方が時々います。
弁護士は後遺障害申請のために病院からカルテを取り付けて診察の経過を確認するのですが、依頼者がまだ首に痛みがあって通院をした日付のカルテに「疼痛は改善している」と記載されていることがあります。
このような状況が起こる原因としては、診察時に医師に症状を正確に伝えることができていないことが考えれられます。“医師のキャラクター的に本音を伝えにくい”“医師であればなんとなく分かってくれるだろう”と考えて、あまり痛みについて詳細に説明していないのだと思われます。
しかし、痛みがあることをあまり強調せずに話してしまうと、快方に向かっていると医師に誤解されてしまうことがあります。むち打ちは、自覚症状しかないことが多いので、医師に対しては、自分の症状を正確に伝える必要があります。
もし、カルテの記載と実際の自覚症状が異なる場合、自賠責への後遺障害申請や損害賠償請求の裁判において「通院当時に痛みが残っていた」と主張したとしても、カルテの記載が優先される可能性が極めて高いです。その場合、カルテ上は「疼痛が改善している」ので、後遺障害14級9号の「局部に神経症状を残す」と認定されず、後遺障害が認められなくなってしまいます。
私は、通院をしている相談者や依頼者に対しては“症状をきちんとカルテに書いて貰えるように、医師に症状をはっきりと正確に伝えてください”とアドバイスしています。もし、どうしても医師とのコミュニケーションが取りづらいと感じたら、通院する病院を早く変えることをお勧めします。
<痛いのを我慢してはいけない>
上述のとおり、多くの事故では一括対応で相手方の保険会社が治療費を払ってくれるので、その期間中は治療費の心配なく通院ができます。ただ、一括対応はいつか打ち切られてしまいます。そして、一括対応を打ち切るタイミングで相手方の保険会社の担当者から示談の話を持ち掛けられることがあります。交通事故のご相談を受けていると「相手方の保険会社の担当者から示談するように言われたので、治療を止めた。」という相談者も見受けられます。
しかし、一括対応は、あくまで相手方の保険会社が示談成立前に任意に治療費を払ってくれるだけです。そのため、一括対応終了後は自分の健康保険を使って通院することができるので、治療を止める必要はありません。さらに、むち打ちの後遺障害申請をする場合、長期の治療をしていることが判断要素の一つになりますので、後遺障害の恐れがある場合には治療を継続することが重要です。
自己負担で通院した治療費については、通院終了後に(症状固定の時期は争いになる可能性がある。)相手方の保険会社に請求することになります。痛いのを我慢して示談を成立させてしまい、示談後に通院を再開したとしても、治療費が払われることはありません。痛みがあるならば、一括対応終了後も健康保険を使ってしっかりと通院を続けてください。
<通院間隔を空けない>
通院頻度があまりにも少ないと、相手方の保険会社から「治療の必要性が低い。」と判断されてしまう恐れがあります。仕事が忙しくて平日に病院に行くことが難しいという人もいるかと思います。しかし、病院に行かなければ「病院に行く必要がなかったから、行かなかった。」という結果になってしまうのです。
さらに、後遺障害申請の際にも、通院頻度が少ないと「症状の程度が軽い。」という判断に繋がりやすく、その結果後遺障害が認定されにくくなってしまいます。
通院頻度の目安としては、週に2~3回と言われています。特に、交通事故の発生後3か月くらいは、この通院頻度を下回らないようにした方が良いと思います。
もし、通院のために会社を休んだり時間給を取ったりした場合には、休業損害を相手方の保険会社に請求することができます。そのため、仕事が忙しい人については交通事故直後は時間休や有休を上手く使いながら、徐々に通院の間隔を空けていくのが良いかと思います。
<おわりに>
自賠責に対する後遺障害申請のうち、むち打ちの事案(14級9号)が特に多いのですが、その全てが認定される訳ではありません。
到底認定されないような軽微な事案も多く含まれている一方で、認定されるか当落線上の事案もかなり多い印象を受けます。後遺障害が認定されるかの勝負所としては、結局のところ“自覚症状以外に後遺障害を基礎づけるような要素があるか”です。上記解説は、その要素を取りこぼさないようにするアドバイスの一部ではありますが、かなり参考になるのではないかと思います。
私は、以前の事務所で保険会社の代理人を務めていたこともあり、多くの交通事故事件を扱いつつ、専門的な処理も学ぶことができました。天白区や緑区、名古屋市近郊(豊明市、東海市、大府市)で交通事故に遭った方は、ぜひ弊所までご相談いただければと思います。