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2025/10/04

【弁護士コラム・相続①】遺言を残す被相続人と、残された相続人

【弁護士コラム・相続①】遺言を残す被相続人と、残された相続人

 

<はじめに>

 今回は、遺言について解説します。

 「終活」という言葉が世間でも浸透してきており、ご高齢の方で、自分の相続のことを考え始めている方も多いかと思います。「終活」の中でも、皆さんが一番に思い浮かべるのは遺言でしょう。ただ、私が担当してきた遺産分割事件に関して言えば、被相続人が遺言を残している事案はそこまで多くないという印象です。

遺言を作成しなかった理由を考えてみると、

・被相続人が、“当然に法定相続分で取得すべき”と考え、あえて作っていない

被相続人が、遺言を残す前に健康・認知状態が悪化したり、死亡してしまった

被相続人が、相続人に対して、生前に遺産分割に関して口頭で話をしていたようだが、書面で残していない

といった事案が多いのではないかと推測しています。

 遺言が作成されていないからといって、必ずしも相続人に不利益が生じる訳ではありません。

 しかし、相続人間(よくあるのは兄弟姉妹。)の仲が良くない場合には、遺産分割時に争いになる可能性が高くなります。

 このコラムでは、遺言者(遺言を残す被相続人のことです。)が気を付けるべきポイントを解説するとともに、相続開始後に相続人が遺言をどのように取り扱ったら良いのかを解説します。

 

<遺言の種類>

 遺言は大きく分けて、3つの種類があります。

 1つ目は自筆証書遺言です。自筆証書遺言は、遺言者が自分の手で遺言の内容を書き、署名・押印をします。手軽でお金もかからないので最も利用される方式なのですが、法律上の要件を満たさないとあっさり無効になってしまいます。

 2つ目は、秘密証書遺言です。秘密証書遺言は公証役場で作成する方式で、遺言が封印されて内容が誰にも知られないという特徴があります。あまり実務では見かけません。

 3つ目は、公正証書遺言です。公証役場で公証人が遺言の文章を作成する方式で、信用性が高いと言われています。自筆証書遺言は紛失、隠匿、偽造・変造のリスクがありますが(後述しますが、このリスクに対しては法務局による保管制度を利用することで対処できます。)、公正証書遺言であれば公証役場で原本を保管してくれるので安全性も高いです。

 以下、実務でよく利用される自筆証書遺言と、公正証書遺言について解説していきます。

 

<自筆証書遺言の作成上の注意点>

 自筆証書遺言のメリットは手軽に作成でき、お金もかからないことです。そのため、コストかけずに遺言を残したい場合にオススメです。

 しかし、自筆証書遺言には、法律上の厳格なルールがあります(民法968条)。

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名自書し、これに印を押さなければならない

自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については自書することを要しないが、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。

自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 実務で見かける問題点としては、「日付が書かれていない」「日付が●月吉日と書かれている」といったものです。日付は、必ず遺言を書いた当日の日付を明確に入れてください。

 また、署名だけではなく押印も必要で、押印がされていない遺言は無効です(契約書の場合には署名のみで足りるので、契約書のルールと混同してしまう方がいるのだと思われます。)。

 

<自筆証書遺言の保管制度>

 自筆証書遺言には紛失、隠匿、偽造・変造のリスクがあるという説明をしましたが、法務局での遺言書保管制度を利用することによって、そのリスクを大きく減らすことができます。

 また、保管制度の申請時には法律上の要件を満たしているか形式的な確認をしてくれるので、保管されている遺言については明らかな不備はないと考えてよいかと思います(※あくまで形式面をチェックするだけで、遺言の内容が法的に有効であると保証してくれる訳ではありません。)。

 さらに、相続開始後に家庭裁判所の検認手続(後で説明しますが、遺言書の隠匿、偽造・変造を防止するための家庭裁判所における手続です。)も必要ありません。

 この法務局の保管制度は“公正証書遺言を作成する費用はもったいないけど、遺言の安全性もきちんと確保したい”というニーズに合致するので、多くの方にとって非常に有効な手段と言えます。

 ただし、自筆証書遺言はその作成過程に専門家(弁護士、公証人等)が関与していない場合には内容の有効性、妥当性が問題となることが多いです。

 将来的に相続人間で争いが生じる可能性が高いのであれば、遺言を作成する時点で争いが生じないような内容にしておくのが望ましいでしょう。そのため、自筆証書遺言の作成でも弁護士に依頼する方はそれなりにいらっしゃいます。

 

<公正証書遺言について>

 “とにかく遺言の安全性を確保して、相続人間で争いを防ぎたい”という方には公正証書遺言がオススメです。

 公正証書遺言の作成は、遺言者の他に証人が2人以上必要です。遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(口頭で伝えること。)し、公証人は遺言者の口述を筆記して、遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させます。最後に遺言者、証人及び公証人が、それぞれ署名・押印をします。

 公正証書遺言の原本は、公証役場で保管してくれるので紛失、隠匿、偽造・変造のリスクが無くなり、検認の手続も不要です。

 ここまで聞くと、「公正証書遺言と、自筆証書遺言を法務局の保管制度との違いが分からない。」という方もいるかもしれません。公正証書遺言の特徴としては、作成時に公証人と証人の立会いがあるということです。立会人がいることによって、遺言が適切に作成されたことが担保されるので、信用性が高くなります。

 他方、公正証書遺言の作成には費用がかかってしまうので、遺産の総額や相続人の人数、相続人間の人間関係の事情を考慮して決めましょう。

 

<相続には、遺言には必ず従わないといけないのか>

 この項目からは、相続人目線での解説をしていきます。

 よくある勘違いとして“被相続人が遺言を残しているので、相続人はその遺言に必ず従わないといけない”というものがあります。

 遺産分割の内容・方法について相続人全員で合意ができるのであれば、遺言とは異なる内容・方法の遺産分割をすることは可能です。ただし、相続人間で協議が整わない場合には、遺産分割調停や審判を行わざるを得ません。

 一番やってはいけないのが、遺言を発見した相続人が遺言を隠したり、処分(廃棄)したりすることです。これは、相続人の欠格事由(民法891条5号、相続人としての資格を失う。)に当たり、また、場合によっては刑事上の刑罰を受ける恐れもあります。相続人間で合意さえできるのであれば、必ずしも遺言に従う必要はないので、たとえ自分にとって不利な遺言があったとしても、隠したり処分することがないようにしてください。

 

<遺言を見つけたらすぐに検認の申立てをする>

 自筆証書遺言が自宅等で見つかった場合や被相続人から遺言を預かっていた場合、相続開始を知った後、遅滞なく検認の申立てをしなければなりません(民法1004条1項)。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の隠匿、偽造・変造を防止するための手続です

 封がされている遺言については、検認をせずに開封してしまうと、過料の対象となる恐れがあります(民法1005条)。また、検認前に開封すると“発見・開封した相続人が遺言を偽造・変造したのではないか”という疑いをかけられてしまう恐れがあり、遺産分割協議の際に不利に働くことも考えられます。

 そのため、遺言を発見した相続人は、すぐに家庭裁判所に検認の申立てをしましょう。

 

<遺言を争うことはできないのか>

 例えば、「遺言の日付の時点で、遺言者は体力的・認知的に遺言を書くことができる状態ではなかった。この遺言は他の相続人が無理やり書かせた物だ。」として、遺言の有効性を争うことはできるのでしょうか。

 この場合、相続人としては、遺言無効確認請求訴訟を提起することが考えられます。遺言無効確認請求訴訟を提起する際には、まず家庭裁判所に対して、家事調停の申立てをしなければなりません(家事事件手続法257条1項、調停前置主義)。

 そして、遺言無効確認請求訴訟において、遺言者に遺言能力(遺言を作成する能力)がなかったと主張することになります。遺言能力については、一般的な事理弁識能力が必要とされており、病院のカルテ、介護施設の記録等の資料によって判断することになります。なお、遺言者が、成年被後見人(被保佐人、被補助人、未成年も同様。)であり、法的に行為能力が制限されていたとしても、遺言を作成することができます(民法962条)

 遺言無効確認請求訴訟では自筆証書遺言だけではなく、公正証書遺言をも争うことができます。公正証書遺言の信用性は高く、一般的に言えば無効となる可能性は低いでしょう。しかし、遺言者に遺言能力がなかったり、相続人による不適切な行為が認定されて公正証書遺言が無効となった裁判例は存在します。したがって、「形だけ公正証書遺言にしておけば、後で無効になることを避けられるので無理やりでも作ってしまおう。」というのは通用しません。言い換えれば、自筆証書遺言であっても法律上の要件をきちんと満たし、内容にも問題がなければ間違いなく有効なのです。

 

<さいごに>

 遺言を作成した後に、財産状況や人間関係に変化が生じて「遺言の内容を変えたい」と思う方もいるかと思います。

 遺言は、いつでも撤回することができます(民法1022条)。また、過去に作成した遺言を破棄せずに新しく遺言を作成した場合、新しい日付の遺言が有効となり、過去の日付の遺言は効力を失います。これは、公正証書遺言を作成した後に自筆証書遺言を新しく作成した場合にも当てはまるので注意が必要です。

 そのため、私は、相談者の方に対しては「遺言は早く作っても良いし、後から作っても良いです。好きなタイミングで作って下さい。」とアドバイスしています。

自分の認知機能が残っているうちに早く作っておくも良し。

優柔不断で何回も遺言を作り直してしまいそうなら後で作るのも良し。

 遺言は、自分の人生最後のメッセージになるでしょうから、よく考えて作成して下さい。

天白区や緑区、名古屋市近郊(豊明市、東海市、大府市)にお住まいで、相続に関してお悩みの方は、ぜひ弊所までご相談いただければと思います。

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