【弁護士コラム・刑事事件②】少年事件で保護者が気を付けるべきポイント
<はじめに>
刑事事件コラムの第2回は少年事件を取り扱います。刑事事件の第1回では「被疑者・被告人の家族から見た刑事事件」を取り上げましたが、今回はその少年事件バージョンです。
少年事件は、少年に対する処罰よりも主に更生を目的としているため、少年の将来を考えた弁護活動が必要です。そのため、弁護士は、保護者と一緒に、少年の再非行防止のために何ができるかを考えることになります。なお、少年事件では、弁護士のことを「付添人」といいます。
このコラムでは、保護者が少年事件の中でどのように関わるのか、何を注意すべきなのかを解説していきます。
<少年事件の対象>
民事事件では18歳以上を成人としますが(民法4条)、刑事事件では「少年」を20歳未満の者としています(少年法2条1項)。そのため、大学生が少年事件の対象となる事案も多数あります。
<少年事件の流れ>
少年事件は、原則として、地方裁判所の刑事部ではなく、家庭裁判所の少年部で審理されることになります(殺人や放火といった重大事件の場合には、事件が検察官に送致(逆送)されて地方裁判所の刑事部で裁判を受けることになりますが、今回はその解説はしません。)。
成人の場合、事案が極めて軽微な場合には、微罪処分(警察止まり)や起訴猶予(検察官止まり)といった形で裁判所へは行かずに、捜査機関限りで事件が終了することも多いです。
他方、少年事件の場合には、捜査機関は原則として全ての事件を家庭裁判所に送致することになっています(全件送致主義)。教育的な観点から、家庭裁判所で少年が更生するための措置を検討するためです。そのため、少年事件では、基本的に“不起訴にする”という弁護方針ではなく、家庭裁判所に送致された後に適切な措置が取られるように働きかけていく弁護方針を目指すことになります。
<少年鑑別所に行ったから有罪?>
少年事件では、少年鑑別所を刑務所と同じように考えている人が多いです。しかし、少年鑑別所に入った時点では少年審判は始まっていませんし、そもそも少年鑑別所は刑罰を与えるための施設でもありません。
少年鑑別所では、家庭裁判所等の求めに応じて鑑別(医学、心理学、教育学等の観点から非行をしてしまった原因を明らかにすること)を行ったり、保護の措置が執られて収容されている少年に対して観護処遇を行います。少年審判を行う前に、少年の家庭環境や特性等を調査する必要があると判断された場合には家庭裁判所で観護措置の決定がなされ、少年は少年鑑別所に送致されます。
少年鑑別所に収容される期間は原則として2週間です。収容期間を1回だけ更新することができるので、最大4週間収容される可能性があります。
通常は上記の流れなのですが、少年が警察により逮捕された場合には、まず管轄の警察署の留置場に収容されます。そして、逮捕から72時間以内に地方裁判所で裁判官による勾留質問が行われ、「勾留に代わる観護措置」という決定によって、少年鑑別所に直接収容されることがあります。この場合、収容期間は10日間となります。
<保護者が少年審判ですることはあるのか?>
少年鑑別所や家裁調査官による調査結果を受けて、家庭裁判所は少年審判を開始するかどうかの判断をします。もし少年審判の不開始決定が出ればそこで事件は終了しますが、少年審判の開始決定が出た場合には家庭裁判所に出廷して審判を受けなければなりません。
少年審判の際には、保護者の方にも同席をしていただきます。少年審判では裁判官が少年に対して、非行をしてしまった原因や自己分析、今後どうしていくべきか、といった内容の質問をしていきます。その後、家裁調査官からも少年に対して、いくつか質問することがあります。
そして、少年から一通り質問をした後、裁判官から保護者に対して質問がされます。「今回の非行については保護者としてどのように考えているのか」「少年が二度と非行をしないようにするため家庭で何をしていくつもりなのか」といったように、保護者が非行について真剣に向き合っているかを裁判官から問われます。少年審判の質問だけで何かを決める訳ではありませんが、裁判官からの質問に対して曖昧な答え方をしたり、また、更生に非協力的な態度が見られる場合には、少年院での教育的な指導が必要と判断される可能性も否定できません。
そのため、少年審判の前には付添人と打合せを行い、少年審判で話す内容の確認をした方が良いでしょう。
<保護処分の種類>
少年審判で言い渡される処分としては4種類あります。
1つ目は保護観察です。保護観察とは、少年院送致はせずに月に1回ほどの頻度で保護司と面談をしつつ、自宅に戻っての生活を続けるというものです。少年審判で言い渡される処分の中で最も多い処分だと思います。保護司とは、保護観察官の管理の下で少年や犯罪を犯してしまった人と定期的に面談を行い、社会に復帰できるようにサポートする有志の役職です。保護司には、現在の生活状況や悩みを話して、再犯にならないように見守ってもらうことになります。保護観察の期間は、一般保護解除であれば20歳に達するまで(その期間が2年に満たない場合には2年間)です。ただし、保護観察後の経過が良好であれば、早めに保護観察が解除されます。
2つ目は児童自立支援施設または児童養護施設送致です。児童自立支援施設と児童養護施設はいずれも児童福祉施設であり、少年院とは異なります。保護者の家庭内での管理・監督だけでは、少年の更生に不十分と判断された場合に言い渡されるものですが、件数は非常に少ないです。
3つ目は、少年院送致です。“成人の刑事事件で言うところの刑務所”というイメージがありますが、刑罰を与えることが目的ではなく、あくまで生活指導、職業指導、教科指導といった教育を主に目的とした施設です。教育の目的に応じて少年院の種類が4つに区分されています。教育目的とはいえ、少年院送致は人権を大きく制限する点で非常に重い処分になりますので、少年院送致の審判が出された場合には抗告することもあり得ます。
4つ目は不処分であり、その名のとおり保護処分をしません。少年審判の結果、非行の原因が明らかとなり保護処分をするまでもなく再非行を防止できると判断された場合に言い渡されます。
<少年審判で主張すべきことは何か>
少年審判で出される保護処分は上述のとおりですが、少年側としては何らの処分を受けない不処分が望ましいでしょう。また、保護処分を受けるとしても保護観察であれば私生活に与える影響も非常に少ないので受け入れることはできるかと思います。望ましい理由としては、処分が軽いということは、それだけ更生の可能性が高いということだからです。
では、不処分や保護観察を付けるためにはどのような主張をすべきでしょうか。
ここでもやはり少年の更生という観点が重要になります。単に“悪気がなかった”“反省している”といった主張をしても、それがどのように更生に繋がるのかを説明できなければ意味はありません。少年がなぜ非行をしてしまったのかを的確に分析しつつ、今後の再非行を防止するために具体的な措置を取っていくことを家庭裁判所に説得していかなければなりません。
少年事件では、家裁調査官が少年や保護者と面談をして、少年が非行をしてしまった理由、家庭環境といった非行に繋がった原因を聴取します。また、家裁調査官は、面談を通じて少年に対して、自分がしてしまったことの重大さや再非行防止のために自分に何ができるのかを考えさせます。
私のスタイルとして、“無理にでも少年の印象を良く見せよう”という弁護はしません。なぜなら、表面を取り繕ったとしても家裁調査官に見抜かれてしまい、反省が足りないと判断されてしまうからです。そもそも、普段とは異なる振る舞いをすると非常に不自然になってしまいますし、反省していないのに反省したかのような態度を取らせるのは教育上好ましくありません。大事なのは家裁調査官とコミュニケーションを取りながら、家庭裁判所の少年に対する印象や評価を汲み取り、適切に説得をしていくことです。
不処分や保護観察を付けるためには家庭裁判所の調査結果を尊重しつつも、少年と保護者が更生する事情をできるだけ多く主張していくことが重要となってきます。
<少年事件における保護者の役割>
また、少年が更生する前提として、保護者が自分の子どもと真摯に向き合う必要があります。非行をしてしまう少年の家庭では、保護者と子どもとの関係が良好ではなかったり、子どもとの向き合い方が分からずコミュニケーションがほとんど無いことも多いのではないかと思います。そのような状況で、保護者が「何でこんなことをしたんだ!」子どもを叱ったり、「もう二度としないようにしっかりと監督します…。」と警察や裁判所に言ったとしても、それを見た子どもには何も響かないと考えています。
少年が1日の中で、最も多く過ごす人は家族です。弁護士や裁判官は事件が終わればもう会うことはありませんし、保護司とずっと面談ができる訳でもありません。結局は、少年が家庭内で安心できるような環境を整える必要があります。家庭裁判所は、少年が家庭内で保護者とコミュニケーションがしっかり取れているかも重視していますので、少年審判に与える影響は無視できません。
もちろん、一朝一夕で人間関係が良好になる訳でもありませんし、子どもの特性が大きく影響している場合には、医療や福祉の専門家によるサポートも必要になってきます。保護者に求められるのは少年の話をよく聞き、リラックスできる環境を作ることです。解決策が無い問題もたくさん出てくると思いますので、家庭内だけで抱え込むのではなく、外部のサポートを積極的に利用することが重要です。
<最後に>
少年事件では、往々にして大人の視点で物事を考えてしまいがちです。
しかし、少年には少年なりの考え方があるはずであり、それを無視して厳しく説教をしたり、重い処分を与えても意味はありません。
すべてを理解するのは難しくても、少年が話そうとしていることを理解しようとする姿勢を見せること、また、少年が話しやすい環境を整えることが重要になってきます。在宅で少年事件の捜査がされている場合には、保護者と少年が一緒にいる時間が多いと思います。その間にできるだけ家庭内でコミュニケーションを取るようにしてください。
他方で“第三者に話に入ってもらって話の交通整理をして欲しい”という家庭も多いです。少年事件を赤の他人に相談するのはかなりハードルが高いですし、そもそも人に話せる内容ではないことも多いかと思います。そのような場合には、私選付添人を依頼することも検討してみてください。